エタ リーブル ド オランジェ ファットエレクトリシャン - Etat Libre d'Orange Fat Electrician
3月のサブスクリプションはまたもEtat Libre d'Orange から。
以前オーダーした ノエルオバルコンはかなり気に入っていて使い切りそうな勢いなのでそのうちフルボトルを購入する予定です。
caffeineandperfume.hatenablog.com
今回のチョイスはセミモダン・ベチバーフレグランスのFat Electrician。
ETAT LIBRE D’ORANGE - Fat Electrician
リリース:2009年
調香師:Antoine Maisondieu
ノート:ベチバー、チェストナッツクリーム、オリーブの葉、ミルラ、オポポナックス、バニラ
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言うまでもなく名前からクセが強すぎるからね。
「太った電気工」て。
美こそが少年の最大の資産だった。テキサスの広大な空気に包まれ、麦穂に撫でられる柔らかな肌、照りつける太陽に逆らうように上を向くまつ毛。
コンクリートジャングルで迷子の美しいミッドナイト・カウボーイ。
しかし彼は消費される運命にあったのだ。
若い女、パーティ、金持ち。他人に使われる中すり減っていた美しさ、輝き。
今や彼はニュージャージーの太った電気工事士、性的能力とともに才能すらも枯渇してしまった。けっして永遠には続かないことーーそれこそが美の呪い。
(U.S.オフィシャルサイトより)
どんなにひねくれているんだ、とも思うが
そこはエタ リーブル ド オランジェ。相変わらず。
「枯れゆく美」「過去の栄光」がキーワード。
過ぎ去りし過去の栄光に思いを馳せる冴えない中年をテーマにした香水とはどんな香りか。
トップで重く暗いベチバーがガツンとくる。
このフレグランスに使われているベチバーはハイチ産らしい。
雨に濡れた土の匂い。
ギリギリと暗いくぐもった香りが続くわけではなく
バニラビーンのまろやかさにミルラ、
オポポナックスの少しスモーキーなバルサミック要素が加わり
角の取れた柔らかいベチバーという印象。
これがモダンベチバーフレグランスとブランドが謳っている理由かな?
グルマンとベチバーの組み合わせはあまり見ないので面白い。
そこから少しチェストナット(栗)のナッツぽさが出わり
甘いアーシー/ウッディーな香りがしばらく続く。
そういうノートの展開は昨日書いたラルチザンのアムールノクターンに似ていると思う。
caffeineandperfume.hatenablog.com
アムールノクターンのシダーをベチバーにして火薬を抜いたような。
ただファットエレクトリシャンの方は
トップ、ミドル、ラストとドラマチックな変化があるわけでなく
スウィートなベチバーが低いところで延々と香っているイメージ。
ドライダウン後肌に残るのは甘々なモンブラン。
上にホイップクリームとマロングラッセが乗ったファンシーなやつ。
グルマン好きにはたまらない香り!良き。
ベチバーの暗い香りは雨が上がった後ぬかるんだ工事現場で働く太った電気工の姿で
その後ろに香る甘いバニラやクリームが
ふと見え隠れする美少年の面影、と言ったところか?
こういう書き方をするとあんまりいい香りに聞こえないんだけれど
太ったおじさん云々抜きにして嗅ぐとかなり中性的でセクシーな香りです。
そこにまた皮肉を効かせてるんだろうな。ホント一癖も二癖もある…。笑
この香水のテーマである”過ぎ去りし美”というのは、
決して「昔イケメンだったダンディなおじさん」「イケオジ」「おっさんずラブ」「枯れ専」とかそういう問題でない。そうじゃない。それは確か。
ただの太った冴えない中年男性なんだろうなと香りでわかる(中年男性の体臭のような香りがするというわけではない、というか何だか失礼な言い方ですみません)
だってこんなに甘美な香りなのに明るさが全く見えないからね。
例えばエネルギッシュさは失ったけれど渋さを手に入れた男性、
可憐な若々しさを手放しつつもすばらしい妖艶さが出てきた女性とか
そういうポジティブさというか希望が一切無い。
グルマンにウッディーときたら温かみが出そうなもんだけど、
どうにも暗い感じが拭えない。
本当にもうそこには無い、二度ととらえることの出来ない
「過去の栄光」「美の呪い」なんだろうな。
Etat Libre d'Orangeのオフィシャルサイトに"Fat Electrician"のバックグラウンドに共感し、また愛用している男性の声が載せられている。
未来は輝かしかったが膝を故障してプロへの夢は途絶えた。
それから地元に戻り就職し、ストレスから体重は増えた。
今はスクラップ工場で働いている。
離婚は2回し、子供は6人。請求書は増える一方
この香水を手に取ったのは友人が手放したものを譲り受けたのがきっかけだ。
とても気に入り、ストーリーを読んだ後ショックを受けた
これはまさに自分だ、と。
栄光は過ぎ去り毎日の激務が自分を待つだけ。
ーとにかく、ありがとう」
だそうで。
おーいおいそんなに自虐的に香水つける????
それ大丈夫なの??とツッコミを入れたい気持ちもあるが
人間が過去の栄光に思いを馳せる姿にも一種の諸行無常的な美しさがあるし
「夢をあきらめた大人が奮闘する」物語に惹かれるのも確かだ。
切ないし救いの無い話ではあるけれどそれも違う形の「美」だね。
一体何の話だっけ?そうだ香水だ。
ファットエレクトリシャンに共感するかは別として、
暗いベチバーに甘々マロングラッセのユニセックス・セントが気になる方はぜひ嗅いでみてほしい…