Serge Lutensの小分けを色々買ったのでしばらくルタンスの記事になりそうです。
今更?感も強いですが、個人的にルタンスとラルチザンの香水は「ニッチ101」「お手本」「はずせないベーシック」「比較対象」のように思っている所があり、自分が普段使うようなものでなくてもサンプルや小分けを集めているので、ブログでも自分の考えをまとめて振り返られるようにしておこうと思った次第です。
(この話前もしたな?)
リリース:2001年
調香師:Christopher Sheldrake
ノート:チュベローズ、ココナッツ、アーモンド、ヘリオトロープ、オスマンサス、バニラ、トンカビーン、レモンブロッサム、ミルラ、ムスク、アプリコット、マンダリンオレンジ
(Fragrantica.comより)
[黒のダチュラ]
豪奢に咲く、ダチュラの白い花。
世界のあらゆる場所で、さまざまな儀式に使われてきた花。
自ら強いパワーを放ち、周りのエネルギーを吸い込んでさらに魅力を増す。
ひとをひきつけ、また惑わすような、比類の無い香り。
(日本オフィシャルサイトより)
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ダチュラ。
ティムバートンの世界から飛び出してきたような妖しく、甘い芳香を放つその花は、幻覚症状を引き起こす猛毒を持つ。
そのダチュラの花の美しさ、怪しさ、毒性を余すことなく表現した香水がこのダチュラノワールだ。
そんな有毒性の植物がモチーフだなんて、
まさにルタンス。その仄暗い世界観ど真ん中
この香水が持つストーリーは百点満点。好きだ。
ダチュラを演じるチュベローズが高々と香る。
間違いなくこの香水で一番メインに香るのはチュベローズ。
ので、ホワイトフローラルが苦手な方は一発アウトかと。
人によっては少しクラシカルな印象を受けるかも。
最初は自分が所持しているチュベローズのシングルノートフレグランスと殆ど違いを感じられかったが、何度も嗅ぐうちココナッツやオスマンサスをバックグラウンドに従えるエキゾチックな構成の香りだということに気づく。
一本調子の白い花でなく、どこか抜け感のある、と言うか…軽やかである。
アマレットと、ダチュラの花をココナッツミルクに浸したものをステアした悪魔のカクテルののような。
濃厚なのに暑苦しくない絶妙なバランス。
(どこかで記憶と結びついているからか、自分の脳はシンプル過ぎるホワイトフローラルの香水を"ルームフレグランス判定"してしまうのだが、これは大丈夫だった。)
時間が経過するほどに生花らしさは消え、
そこにアーモンドビターとヘリオトロープの香ばしさと
ここがよく聞く「杏仁豆腐」フェーズだろう
とはいえグルマンな香り方ではなく、
チュベローズの余韻を残しつつ
ほんの一握りの酸味と香ばしさを混ぜ込んだ
甘いクリーミーな香り、という印象。
お菓子のような香り方を期待していると少しガッカリするかも。
そういやアーモンドも青酸化合物が含まれていて有毒なんだよなあ。どこまでも毒づくし。
次第に杏仁クリームはムスクに溶け肌と馴染む
静かに甘い香りが肌から漂う。
ここまで来ると、
「毒を制したな」という気分になる。笑
つけ始めからドライダウンまでとくに大きな変化のあるフレグランスでは無いけれど、個人的にはこのラストが一番好きだ。
毒を自分に取り込んで新たな力を手に入れたような気分になれる。
ひんやりとした花弁の表面のように
どちらかと言えば冷たい印象を与える美しいチュベローズ。
その裏に、ココナッツやバニラの甘く誘う香り。
もしくは誘われて、既に毒にあてられ、
熱に侵された夢見心地なその甘さ。
なめらかなアーモンドを感じる頃にはきっと幻覚の中。
ココナッツやヘリオトロープが効いているからか、
この香水は夏につけたくなる。
ストレートなホワイトフローラルを夏に?と思う人もいるかもしれないが、これは決して暑苦しくないので大丈夫。年中使えそうだ。
ディオールヒプノティックプワゾンのけたたましいアーモンドがダメだった人はこちらを試してみるといいと思う。癖は少なく、こんもりとした広がりも無い。ホワイトフローラルがいけるなら尚更オススメ。
また、毒毒と繰り返し言ってきたものの香り自体は偏屈でなく、小綺麗で魅惑的なフローラル。だがきれいな物ほど毒を持っているのだ。
この香水でダチュラの他に連想するのは、白い毒キノコ。一見きれいで食べられそうなんだけど猛毒がある、あれ。勘の良い人だけが手を伸ばす前に、危ない、と気づけるヤツ。
ヒプノティックプワゾンがベニテングタケなら、ダチュラノワールは「殺しの天使」の異名を持つドクツルタケと言ったところか。さりげない猛毒。
『自ら強いパワーを放ち、周りのエネルギーを吸い込んでさらに魅力を増す。ひとをひきつけ、また惑わすような、比類の無い香り』_公式の説明文がこんなにアキュレートな香水もそうそう無いんじゃないかと思う。
生暖かい風を頬に受けて歩く夏の夜道、
美しく芳しいダチュラの群生に引き寄せられる
影に何が潜んでいるかは分からない−
そんなふうに人を惑わす毒を日常的に纏いたい貴方にどうぞ。