香水瓶の底

細かいことは気にしない、香水ブログ

セルジュルタンス シェルギイ Serge Lutens - Chergui

 

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2020年一番使った香水、セルジュルタンスのシェルギイについて書こうと思います。

(もう2022年になっちまったよ)

 

2019年3月のTF タバコバニラとの出会いをきっかけにタバコフレグランスにハマり、色々試しましたが、シェルギィは心から出会えてよかったと思える香りです。

 

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Serge Lutens - Chergui

リリース:2005年

調香師:Christopher Sheldrake

 

ノート:タバコ、ハニー、アンバー、ヘイ、インセンス、サンダルウッド、アイリス、ムスク、ローズ  

 

(fragrantica.comより)

 

[モロッコの砂漠の熱風]

けだるさに満ちたモロッコの地に、東方から熱風が吹き付ける。 辺りの花や木々、果実など、すべてを一瞬にして吸い込んで 赤いカーテンのように舞い上がり、 熱の中それらを溶かし、結晶させる。 風の去った後。香りだけが熱気のように残る。

 

(日本公式サイトより)

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強く、かつ優しく差す熱い熱いスパイスの突風。

このトップを嗅いだ時、私は満たされる。心から。

 

甘く煮詰めた薬草、ハーバルな清涼感。

樹脂とハニーを背後に湛え、どろりとした感触にしっかりと突き抜ける爽快感が力強い、どっしりとしたオープニングだ。

ふんだんに仕込まれたスパイスだが決して鼻に引っかかるような鋭さは無い

(薬っぽいスパイシーな甘さ…ドクターペッパールートビアを想像してもらうと分かりやすいかも)

日本公式サイトを見ると、イモーテルの花がクレジットされている

精油はまさに甘い薬草のような香りがするので納得。

乾燥した土地で黄色い花をつけるイモーテルの名は「不死」の意味合いを持つ

 

熱くてひたすらに静かだ。

貴方は、砂漠に吹く風を感じたことがあるだろうか。

肌に感じる鋭さと裏腹に、風が砂に吸い込まれていくようで

音のない世界に佇んでいる気分 まさに時の流れが止まるあの感覚

熱気を帯びてどこまでも広がるのびやかな香りが、シェルギイ(=砂漠の熱風)の名にふさわしい。

 

だが決して風に吹かれていくだけの軽いスパイスではない。

ドライダウン後はよりバルサム(=樹脂)のどっしりとした重みを感じる。

まとわりつくようなものではなく、そこに在る、という存在感

人肌を感じた時のような安心感をもたらしてくれる。

 

面白味のない表現となってしまうが、

つけてから暫くは一貫して異国情緒のあふれる甘いオリエンタルな香りが続く。

ラストノートは一転(という程境目があるわけではないけれど)

アイリスのしっとりとしたパウダリーさとハニーの甘くどこか少しだけアニマリックさのある濃厚でふんわりとした香りが広がる。

これが、どこまでも優しいんだ。包み込んでくれる優しさ。

 

このミドル〜ラストはかなりこっくりとした甘さなので、もっと女性らしさを感じるかと思ったが、自分はこの香水にはやはりマスキュリンさが強いと思う。

そこにあるのは包容力。無意識にどこか父性のようなものを感じ取っているのかもしれない

たとえばトムフォードのタバコバニラはどこまでも甘くて人を拐かすような香りなのにどこか突き放すような「魔性」があると思う…

一方シェルギイは一見近寄りがたいが、その奥にどんな自分も受け入れてくれるような「温かさ」があることを信じたくなってしまう。そんな香りだ。

 

タバコとハニーとは言っても葉巻と洋酒、といったブージーな香りとは毛色が違うので、もしかしたらグルマン好きな層のイメージとは少々異なるかもしれないが、アンバーなんかのオリエンタルなフレグランスを躊躇していた人にも是非一度試してみて欲しい。思いの外スッと入ってくるかもしれないので。

 

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さて、シェルギイを1年程かなり頻繁に使っていて、これが新たに「表向きシグネチャー香水」になるのか?!と思うほどだった。

その割に、この香水に自分を表すエレメントは不思議と言っていい程、無い。

なのに何故こんなにしっくりきていたのか、最近になってようやく気づいた。

これは自分の初恋の香りだった。

(ここから怒涛のストーリーテリング〜自分語り〜が始まります。すみません)

 

 

初恋の人は、自分と正反対で

自分に無い全てを持っているような気がして、憧れて、恋焦がれた。

 

わたしもそんなふうになりたい、という憧れがあった。

熱くて、どっしりと構えていて、実際の歳よりもいくつも大人に見えた

いつも激励してくれて、強面だけどとても優しい人だったのです。

相手は夏生まれの獅子座で、わたしは真冬生まれ水瓶座

あの人が火なら私は風で、そばで追い風になりたいと思っていた。

 

べつにその人が実際にシェルギイをつけていたわけでなく、その人を体現した香りだなと思っただけで、つまるところ私の妄想みたいなもんです。

 

あの人が20歳で、自分は16歳。

覚えたてで吸っていたであろうタバコの煙が、自分の安っちい甘いボディミストと混ざって制服のブレザーに染み付いた、あの香り。

あれこそは、雪国育ちの自分の心に初めて吹き荒れた砂漠の熱い風だったんだなと、思った。