Amouageのメインコレクションから、Journey Men & Women
Journeyはアムアージュのフレグランスの中ではあまり話題に上っていない印象がありますが、ユニークなノート構成を見て以前より気になっていました。
サブスクリプションサービスでFor Menを、そして何故か取り扱いの無かったWomenは別にサンプルをオーダー。Womenはサンプルなので今回は主にMenの感想になります。
メンズフレグランスの記事はこのブログ初めてかな?
Amouage introducing new fragrance " Journey "
アムアージュクリエイティブディレクターのChristopher ChongがForbes誌で語るには、
ジャーニーは彼が観て育ったチャイニーズシネマからインスピレーションを受けたコレクションで、Menのシチュアンペッパー(花椒)とインセンスはその陰影を、Womenのオスマンサスは東アジアの情景を表現しているとか。
(このForbesの記事↑だと、ブランドのラグジュアリーに見合った購買層である中国人をピンポイントでターゲットにしたコレクションだ、というニュアンスで書かれているので、純粋にフレグランスのエキゾチックな魅力に引かれた自分としては少しモヤっとしたが、まあ事実そうなんだろうし第一に考え過ぎか)
プロモーションビデオはヴィンテージな装いにスモーク、ヴェールを纏った女性と中々にミステリアスな印象。
というか出演している男性、Christopher Chong氏ご本人なのか。以前インタビュー動画で見た姿と全ッ然印象が違うんでびっくり。メガネと髪型で変わるね……
Amouage - Journey For Men
リリース:2014年
調香師:Alberto Morillas, Pierre Negrin
トップ:シチュアンペッパー、ベルガモット、カルダモン、ネロリ、ビガレードオレンジ
ミドル:ジュニパーベリー、インセンス、ゼラニオール、タバコリーフ
(オフィシャルサイトより)
---------------------
弾けるペッパー(山椒のイメージ?)に
ベルガモットと思われる、苦味の効いたフレッシュな酸味。
クレジットされているビガレードとはダイダイ(鏡餅に乗ってる柑橘)のことらしい。
バックでほんのりと香るビターオレンジ、
フラッシュのように煌くペッパーに
染み出してくるジュニパーのほろ苦さ
どこまでも押し上げられるエネルギッシュさが
とても力強いトップだ。
何とも言い表しがたいが、ビターなのにぐいぐいと背中を押される、力がみなぎる香りなのだ。
この時点でかなりマスキュリン、
正直ユニセックスで使いやすいタイプでは無い。
トップだけ見ると襟のピンとしたシャツを着た男性といったイメージがあり格好良い。
ペッパーとシトラスが居なくなり
酸味と苦味を含んだジュニパーベリーが前面に出てきたところで、
香りはその様相を変える。
じわりとにじみ出す暗い影、
タバコとインセンス。
トムフォードのタバコバニラのような甘い葉巻ではなく、どちらかというとディプティックのヴォリュートのような、スモーキーでAshyな煙草の匂い。
押し上げられるようなまばゆいトップから、
アロマティックに落ち着くかと思えば
煙に沈んでゆくような仄暗さ。
白黒フィルムのライトとシェードを表しているという話には納得。
煙が辺りを包み込んだ後は
タバコリーフの甘さがレザー、トンカ、アンバー
肌馴染みの良いベースに溶け込み何とも色っぽい香りに落ち着く。
バニラや洋酒系の甘さでなく、
あくまでウッディーにレザーやアンブロクサンのなめらかさが加わった香りなので
最後まで穏やかなウッディー&アロマティック
甘いのが苦手な方も楽しめるタバコフレグランスだと思う。
硬派なのに色っぽい。
トップとラストでがらりと変わるような表現をしてしまったが、香りの変化自体はとてもゆるやかで、刹那きらめくトップから段々と影を落としていく、そんな感じ。
フレッシュなスパイスから、バルサミック、そしてウッディー
人間の光と闇を表すようなドラマチックな二面性では無い。あくまで人間の一生を描いた画の骨格を彩る光と陰、その境目をぼかすような煙。
フィルム上の白と黒は概念でしかない。
よく目を凝らさなければその色を忘れてしまう。揺蕩うように、ただ確かに、そこにある灰色。とてもユニークで美しいフレグランスだと思う。
さてここでJourney Womenの方を見てみよう。
Amouage - Journey For Women
トップ:アプリコット、ジャスミンティー、オスマンサス、ナツメグ、カルダモン
ベース:パイプタバコ、サフロン、バニラ、シプリオール、ムスク
(オフィシャルサイトより)
---------------------------
この香水、レザーはノートにクレジットされていないのにがっつりレザーフレグランスである。
オフィシャルの説明文にも「レザーフレグランス」とあるのだが、クレジットされている他のノートのどれかがレザーの香りを作っているという事だろうか?
(香料には詳しく無いので何とも言えない)
如何にもエキゾチック、なフルーティー
異国情緒な雰囲気を助長しているのはジャスミンティーだろう。
そして甘い杏子とキンモクセイが
とろけるようにジャスミンの花に変わる。
Menでは感じなかったエキゾチックさがここにある。
ここから一体どうなるんだろう?
と思った矢先、香りはガラリと顔を変える。
どこからともなく現れるレザー
ソファのような重たい皮ではなく、
ブティックの上等なレザージャケットといった
高級感溢れる衣服の香り。
先程のアプリコットや
一体何処へ行ったの?
と思う程の唐突なレザー。
エキゾチックビューティから一気にパキッと、スマートかつミステリアスな孤高の女性に。
長らくレザーが続いた後は、
ゆっくりとハニーの甘さが滲み出てくる。
皮の重厚感がゆっくりと
甘く、軽くなっていく。
ハニーと、おそらくミモザの柔らかな香り。
トップの少し癖のあるフルーティとはまた違う、
ひたすらに優しい甘さだ。
最後はベースにいたさりげないタバコとウッディーさがバニラやムスクと混じり合い、官能的な柔らかさで肌に消えてゆく。
変化が穏やかなMenと比べ、
こちらはコロコロとその表情を変える。
桃源郷の庭園、上等な衣装が詰まった押入れ、贅沢なフルーツをふんだんに使ったデザート。
こういう組み合わせも見たことがない、ユニークだ。
良い意味で掴み所がない
MenでメインだったタバコがWomenではバックグラウンドで、逆にWomenで主役のレザーがMenでは脇役
お互いが見事に対を為すペアフレグランスだ。
最初に二つを嗅いだときは、何処かちぐはぐというか、同じ物語に居ても違うページに居て交わることのない存在どうし、といった印象を受けた。
予備知識ナシでこれらを一緒に嗅いで、同じコレクションのメンズとウィメンズバージョンだとピンとくる人は少ないはず。
ただそれが、片方は光と陰でもう一方が彩る絵具の役割を果たす存在というなら、これほど深く納得できるものは無い。
それぞれお互いが無くても成立する存在
しかしそれらが交差するとき、どんな物語が始まるのだろうか。
香りを知った状態でプロモーションビデオを見ると、見事で、二度感動する。
「物語の無い香水はただの物質でしか無い。与えられたストーリーが調香の技術的側面を超越し、その香水を永遠の存在にしてくれる」
とChong氏は語る。豊かなストーリーを詰め込み、それでいて解釈を深められる余白をくれる香り。素晴らしい。
Journey Womenのレビューやノートを見ていて、レザーが強いのに気づかずこれは自分シグネチャーになる得るかも!と思い気になっていたのがこのフレグランスを手に取ったきっかけで、結局自分の思った香りとはだいぶ違うものだったのですが、それ以上に素敵な出会いでした。
クラシックすぎるかもしれない、という先入観を持っていたアムアージュですが、他にもこんなにストーリーが詰まったラインナップがあるのかと思うと、色々試してみたいとワクワクします。